2012-01-01から1年間の記事一覧

2012年、私の20本

〇映画部門 1.「よく知りもしないくせに」 ホン・サンス 2.「ムーンライズ・キングダム」 ウェス・アンダーソン 3.「親密さ」 濱口竜介 4.「ハハハ」 ホン・サンス 5.「次の朝は他人」 ホン・サンス 6.「J・エドガー」 クリント・イーストウッド 7.「教授と…

至福のひと時 ― 「夢を召しませ」 川島雄三

もう学校にも工場にも行かなくていいし、今日や明日、これから先のあれこれについて煩う必要もない。あらゆる責任や役割から解放され、自分が自分でしかないことから逃れ、さらには人間をやめることだってできる。この一時間ちょっとの小旅行(トリップ)は…

ジョルジュ・メリエス「月世界旅行」×相対性理論 (爆音3D映画祭)

ティム・バートンの「ビッグ・フィッシュ」があれほど感動的なのは、まず、あの親父が親父としての威厳を守り通したからだ。たとえ息子と絶縁しそうになろうと、親父としての威厳を保ち続けるために、親父は一歩も退くことなく、自らが語って来た物語を真実…

僕の母親はサイボーグ ― 「シチリア!」 ストローブ=ユイレ

映画作家であれば誰でも、その物語や登場人物、背景がいかに本当らしいものであるかを観客に信じ込ませるために、細部の演出やロケーション、小道具ひとつひとつに至るまで全精力を注ぎ込むことだろう。たとえそれがどれほど気狂いじみた内容であっても、そ…

「アルゴ」 ベン・アフレック

ちょうど昨日、河合君やドラ山君と大人蔦谷に向かう際、代官山のマレーシア大使館を通り過ぎるとき、「この塀の外は日本で内はマレーシア。塀を乗り越えればマレーシアに亡命できる」という、その「ケイドロ」的なルールのゲーム性の滑稽さをドラ山君が指摘…

モテキ

今日歩道橋から、向うの道路を30代くらいのカップルが自転車で2人並んで走っているのを見て直感的に悟ったことは、ある女性がいたとしてもその女性を乗せる物がなければモテないのだということ。自転車が1台だけあっても女性を乗せる荷台がなければだめ…

マシジュン ― 「桐島、部活やめるってよ」 吉田大八

桐島が出てこない。その不在によって物語が進んでゆく「桐島」は、ヒッチコック言うところの「マクガフィン」である。また特徴的なのは、ガス・ヴァン・サントの「エレファント」のように、異なる視点から、何度も同じ時間が繰り返される。 これらはさして驚…

奇跡について

工場の昼休憩時間にジャンキーむすめがピカチュウのベーゴマを回していて、「ポッチャマが欲しい」と言ったので「もしや」と思って、チョコチップスティックを口に運ぶ手を止めてカバンの前ポケットを探すと、まさにそのポッチャマのベーゴマが入っていた。 …

ジャンキーと友達になる

これから書こうとしているのが、「親密さ」の平野鈴でも「PASSION」の河井青葉でも、「ダークナイト ライジング」のキャットウーマン(アン・ハサウェイ)でもなく、「おおかみこどもの雨と雪」の宮崎あおいでもなく、さらには西武ドームのももいろクローバ…

スーパードンキーコング

恐らく人生で初めて買ってもらったCDはスーパードンキーコング1のサウンドトラックCDで、ジャケットに一本のバナナの絵が描かれているので、ヴェルヴェット・アンダーグラウンドのアルバムと間違えて買ってきてしまったようななかったような記憶がある…

鳩が卵産んでる ― 「コンボイ」 サム・ペキンパー

松浦寿輝が「映画n−1」の川島雄三論の中で「取り違えの喜劇」と「場違いの喜劇」について語っている。「・・・取り違えと場違いが一分の隙なくがっちりと噛みあって或る時間の持続を支えきること。事実、『チャップリンの黄金狂時代』や『キートンの探偵学…

「小さな逃亡者」 モーリス・エンゲル、ルース・オーキン、レイ・アシュレー

水場で手に少し水を浸し、頬に塗りたくるあの顔の洗い方。そして、早朝の人っ子一人見当たらない浜辺を孤独に歩く姿。間違いなくトリュフォーがこの「小さな逃亡者」(1953)を見て「大人は判ってくれない」(1959)に繋がったのだという確信を得て、モーリ…

フレンチ・カンカン ― 「ミッドナイト・イン・パリ」 ウディ・アレン

「脱出」、「コンドル」や「リオ・ブラボー」がより一層感動的なのは、同じ人が「赤ちゃん教育」や「モンキー・ビジネス」を撮っているからであり、「走れ!」や「DNA狂詩曲」を素直に賞賛できるのは、同じ人たちが「ココ☆ナツ」や「ミライボウル」を持っ…

スイーツ・パラダイスについて

今日友人の河合君とスイーツ・パラダイスに初めて行った。普通であれば男子禁制であるはずのところを特別に許可を出し、男子もごく少数入れてもらえている楽園に足を踏み入れるわけだから、高嶺の花を遠くから見つめることしか許されない虫のような男子中学…

あしたって今さッ!! ― 「人妻集団暴行致死事件」 田中登

「『人妻集団暴行致死事件』の『人妻』とはこの女性に違いない。だから、この女性は集団で暴行され死に至らしめられるのだ」と、枝美子が初めてその不健康な色の顔を覗かせた瞬間に予感できてしまえることはただごとではない。そして、彼女が死んだ2羽の鶏…

死臭漂う ― 「(秘)色情めす市場」 田中登

もちろん僕だって、小学5年生のときに飼育栽培委員会に属し、毎週火曜日がチャボの飼育当番だったわけだから、それらを校舎の屋上から解き放ってみたいという欲望に駆られなかったわけがない。果たしてどうなるのか?羽をばたつかせながらうまく着地するの…

n-1 ― 「ももクロ春の一大事2012 横浜アリーナまさかの2DAYS」

中央にはメインの円形ステージがあり、そこから両サイドに2本の通路がせり出している。舞台は360度観客に囲まれ、いわばストリップ小屋のような構造になっているわけだ(もちろん中央の円形ステージは回転する)。そして天井には映像を映し出す、決して大…

日曜日が待ち遠しい!

ももいろクローバーZが好きだと語るのは容易いが、「DNA狂詩曲」が好きだと告白するのは並大抵のことではない。それはたとえば「加藤ローサが好きだ」とか「毛布がほしい」とかいったことを告白するくらい困難なことだ。「走れ!」が好きだと言うことよりも…

ジャッキー・チェンはもしかするとすごい人かもしれない

今日、オーディトリウム渋谷で黒沢清の「ドッぺルゲンガー」を見て来たのだが、上映前の予告編で大変感動させられた作品があった。 (同じく流れていた)ゴダールの「右側に気をつけろ」の予告編以上に興味深い予告編・・・それはジャッキー・チェンプロデュ…

長江英和の「たすけて・・・」はすごくよかった ― 「劇場版 SPEC〜天〜」 堤幸彦

カルーセル麻紀にベビーシッターのちょっとした役を与えることで、ほどよい濃度を生産すること。それこそ「ケイゾク」において、渡部篤郎や野口五郎、長江英和、鈴木紗理菜や泉谷しげるらの饒舌を、寡黙な演出や配役と中和させることによって当前のように生…

今日のこと

レンタルビデオショップ「ポパイ」で、レンタル落ちのヴィデオテープが1本10円という駄菓子のような値段で売られていたので、大量に(といっても6本)購入した。 黒沢清「ニンゲン合格」「カリスマ」「アカルイミライ」、青山真治「月の砂漠」、相米慎二…

顔のない眼 ― 「ドライヴ」 ニコラス・ウィンディング・レフン

リカちゃんのパパとママを姉の部屋から盗み出すことに成功した少年の欲望は、2人をラジコン・カーに乗せて疾走させ、壁に衝突させ、高所から落下させ、横転させ、どぶに突っ込ませ、ラジコンごと爆破し・・・思い付く限りの刑を執行するだろう。が、それで…

サスペンス ― 「おとなのけんか」 ロマン・ポランスキー

目まぐるしく変化する登場人物4人の視線、そして、部屋の至る所に飾られた絵画や記念写真、鏡、窓の外に見える風景(ニューヨーク・ブルックリンが舞台のこの映画はパリで撮られたというから、これは恐らくCG)、外から聞こえて来る車の騒音、携帯電話の…

香も高き中学生 ― 「フィガロの告白」 天野千尋

かつて中学生だった経験のある男性ならば誰でも―野球部であった男性でも、ボードゲームクラブであった男性でも、そして支配者階級だった男性方も、虫のような生活を送っていた方々もきっと―そしてきっと女性も―少年が少女の家へ向かって自転車で走り出す姿を…

マシンの荒唐無稽さ ― 「大拳銃」「へんげ」 大畑創

アンゲロプロスやカネフスキーにさえ荒唐無稽さを勝手に見出し、カネフスキーがインタビューで「あれは宗教的象徴だ」などと語っていたときには面食らったが、それでも映画とは、まずひとつに荒唐無稽なものであり得るということは断言したい。 マシン(装置…

Meet Me in St. Louis

スコセッシの「映画100年アメリカ編」で紹介されていて気になっていたヴィンセント・ミネリの「若草の頃(Meet Me in St. Louis)」を見ました。 やはりとりわけ、トゥーティが泣き叫びながら雪ダルマぶっ壊すシーンは素晴らしかった。もうすぐセントルイ…

ミア・ハンセン=ラヴラヴ ジュリー・デルピーラヴ

3月4日からの日仏学院の特集「フランス女性監督特集」で、「あの夏の子供たち」のミア・ハンセン=ラヴの新作「グッバイ・マイ・ファーストラヴ」が見られるという。 なんとさらに、ミア・ハンセン=ラヴがやって来るというではないか!そして井口奈巳らと…

Bigger Than Life ― 「マイルストーン」 ロバート・クレイマー、ジョン・ダグラス

人生で初めて出産に立ち会った僕が凍りつくのは至極納得がいくが、もう何度もそれを経験しておられるであろう紳士淑女の皆様方までも凍りつかせるとは、これはもう仕様がないとしか言いようがない。 195分にも及ぶこの長大な映画の終盤、なんと一切の処理(…

地理学と地質学の幸せな結婚 ― 「ドラゴン・タトゥーの女」 デヴィッド・フィンチャー

部屋の中にはセブンイレブンのレジ袋が認められ、冷蔵庫にはコカ・コーラが何本も収められている俗物っぷり。そして、マクドナルドのハッピー・セット(“Happy meal”)を好んで食す可愛らしさ。タバコの吸い方にもあどけなさが抜けていない。 一見クールで、…

青が欠けている ― 「ももドラ」 佐々木敦規

『D'の純情』の間奏で、百田夏菜子の天才が生む永遠の時間とか、『ミライボウル』のラスト30秒で、高城れにの気違いじみた踊りが創り出す無限の空間とか、そういった僕らを宙吊りにしてしまうような瞬間―それこそ映画的瞬間というものだ―を僅かながら期待…