香も高き中学生 ― 「フィガロの告白」 天野千尋

 かつて中学生だった経験のある男性ならば誰でも―野球部であった男性でも、ボードゲームクラブであった男性でも、そして支配者階級だった男性方も、虫のような生活を送っていた方々もきっと―そしてきっと女性も―少年が少女の家へ向かって自転車で走り出す姿を、縦の構図で捉えたショットに至福の喜びを感じることだろう。

 男子中学生たちの焦げ茶色に日焼けした天然の肌とそこから噴き出て滴る汗。実際にクソ暑いのだろうという、その真夏の日中の暑さをはっきりと感じ取ることができるこの身体的な映画は、それだけで贅沢なものだが、さらに少女たちの髪や身体から放たれる芳しいシャンプーやボディ・ソープの香り―あのころの匂いだ!―を缶詰めにしてしまっているのだから、これはもう嬉しくて仕様がない。

 思った通りに事が運ぶ、予定調和的な物語―2人の中学生が同じ少女を好きだったり、エロ本が少女に見つかったり・・・―は明らかにフィクションなのだが、スクリーン上で起こるあらゆる出来事は男子中学生たちにとって本当のことのようにしか思えない。
気になるあの娘に公衆電話で告白をし、「大学生の彼氏がいる」と言われてフラれた少年の表情には、嫉妬とか絶望とか、ありとあらゆるものが混ぜ合わされたあの独特のしょっぱさが溢れ出ている。気になるあの娘の家に行き告白する少年を、遠くから見守る友人たちの視線は―例えるならNHK教育で以前放送されていた砂アニメ「AEIOU」のような無邪気さ―かつて思春期の僕らのそれと寸分も違わない。そういった少年たちの絶妙な表情がさりげなく、奇跡的に捉えられていることに吃驚させられ、トリュフォーの「あこがれ」を見ているときのような幸福が止むことがない。
終盤、日が落ちかかって、空がオレンジ色になっているのも本当に嬉しい。


フィガロの告白」はユーロスペースで開催中の「桃まつり すき」、「壱のすき」で21日まで上映中。