片渕須直『この世界の片隅に』

 夕方、ユーロスペース片渕須直この世界の片隅に』見る。
 すず(のん)はいつだって現実に立ち遅れ、現在のリアリティを捕らえそこなう。だからこそ絵を描き続けるのだし、そもそも絵を通してしか、あるいは何らかの作品を通してしか、現実のリアルを把握することは不可能じゃないか。
 たとえばすず(のん)は、防空壕で夫とキスをするとき「私はこの人とこんなことをしてしまっている」と考えるし、呉を初めて空襲が襲ったときも「絵の具があれば・・・こんなときに何てことを考えているんだろう」と。あるいは「ぼうっとしているうちにこんなことになってしまった」。
 まさにこの「遅れ」の感覚、現実に対してわれわれはいつも立ち遅れてしまうということのリアリティゆえにまず、この映画は素晴らしい。
 同時に、この「遅れ」という点は、のんの言動やふるまい、最近の事情などと、どうもいくらか重ね合わせずにはいられない。だから、手放しにのんを擁護したくなる映画である。がんばれのん!