「5 windows」 瀬田なつき

オリエンテーリングに恐怖を感じるようになったのはいつからだろうか。
中1のときの宿泊学習のオリエンテーリングは確か平気だった。でも、いつの間にかオリエンテーリングが怖くて仕方なくなって、オリエンテーリングから遠く距離をとっていた。

横浜の黄金町界隈を歩きながら5つの場所に映写された映像をみるという、オリエンテーリングのようなこの映画体験「5 windows」も、だから、正直怖くて仕様がなかった。始めに黄金町各所の4つのスクリーンで約5分の短編版を見、最後に映画館「ジャック&ベティ」で25分の少し長めのまとめ長編版を見るというのだが、「グループを作ってください」などと言われたらどうしようかとビクビクしながら「ジャック&ベティ」下の集合場所に集合した。どしゃぶりで、靴もグチョグチョだったし、関内のお惣菜屋で買ってカバンに入れておいたカキフライが楽しみだったので、逃げようかとも思った。
しかし心配ご無用。始めの4つの場所は、1人でもカップルでも、順番も関係なく自由に回って良いという。
それを聞いて僕はノッてきた。なにせ黄金町は週一でブラブラするし、庭みたいなものだから、「これはひょっとしたら優勝を狙えるかもしれないぞ」と思った。優勝など無いという。
注意事項とルール説明を聞き、「散れ!!」という合図とともに皆方々に散らばる。

始めに向った「日ノ出スタジオ」(隣の洒落た古書店にはよく行く)で、度肝を抜かれた。
京急線の電車が走っている映像がスクリーンに映し出される。と同時に、実際に「日ノ出スタジオ」の上を走る京急線の騒音がヘッドフォンの外から聞こえ、京急線の振動が地面から体に伝わってくる。映像も、もちろん、まさにその場所であって、「日ノ出スタジオ」の外をそのとき実際に通った車の騒音が、映画内から聞こえてくるものなのか、映画外から聞こえてくるものなのか、分からなくなる。
映画内と映画外が混ざり合い、一つの地平線上で繋がる。このファンタスティックな体験に、オリエンテーリングの怖さなど一瞬にして消え去ってしまい、すごく興奮していた。

2か所目の「CROSS STREET」。少女(中村ゆりか)は宮崎あおいのような雰囲気を出していてとても素敵だ。大岡川にクラゲがいることをちゃんと証明してくれているのも本当に嬉しい。
3か所目の「nitehi works」は染谷将太がマウンテンバイクで走っているだけで十分だ。

2か所目、3か所目と回って、もう僕は黄金町をボロボロ涙を流しながら歩いていた。
そして4か所目。コインパーキング横の古い家の壁に穴をブチあけ、スクリーンをはめ込んでいる!!僕らは、そのコインパーキングに立ちつくしてスクリーンを円状に囲み、上映に立ちあう。車が駐車場に入ってきて、避けながら見る。
少女(長尾寧音)が、これまた素敵な少女なのだ。こんな少女が、この黄金町にいるだろうかと思う。これは映画内の出来事で、現実にはこんな少女に出逢えないのではないか。
いや、そうではない。少女が乗っている京急線は、まさに今、僕らの横を通っている京急線であり、少女が歩いている街は、まさにここ、黄金町だ。少女はその日この場に、実際にいたのである。過去と未来の出逢い。少女はスクリーンを囲む僕らにカメラを向け、シャッターを押す。今日このスクリーンで、この少女と出逢えたことが最高の記念となる。

「ジャック&ベティ」に帰って、25分の長編を見る。男(斎藤陽一郎)、青年(染谷将太)、少女(中村ゆりか)、少女(長尾寧音)の4人は、恐らく、実際には出逢えてはいない。それらの出逢いは「今」と「過去」、「夢」との出逢いである。僕らにとって4人がもう失われてしまっているように、青年(染谷将太)にとって少女(中村ゆりか)はもう失われた存在だ。橋の上で二人は出逢うが、同じショットの中では出逢えず、切り返しショットで交互に見つめあうしかない。しかしそこで悲しむのではなくて、過去との出逢いを通して、その貴重さを知り、今を全力で生きることを学ぶ。
ラストで少女が歌いだすと、僕はボロボロ涙を流して崩れ落ちていた。

「映画の中の光景が、映画館を出ても広がっていた」という体験こそ最高の映画体験だと思う。
そして映画を見ると言うことは、映画館で、ある映画を見ると言うだけでなくて、どの街で見たとか、誰と見たとか、その後にどの店でなにを食べたかとか、なにを買ったとか、何線で帰ったかとかも含めて、家に帰るまでが映画を見るということなのだと思う。「5 windows」はまさにその体験そのものだったので、今も興奮さめやらない。

黄金町は、川は臭いし、アパートの二階から嘔吐物が落ちて来るし、古びた風俗店がズラリと並んでいるし(「ジャック&ベティ」という名を最初に聞いたときはストリップ小屋かと思ったくらいだ)、治安が悪そうなイメージがある。しかしそんな黄金町のネガティブなイメージも、近い将来、失われていくかもしれない(最近はアーティスティックな施設が次々とつくられている)。「5 windows」はネガティブな黄金町をとらえつつも、その黄金町が今、変化してゆく様子をおさめている。今この黄金町の掛け替えのなさを目にし、知ることができて、今日はほんとうに来て良かった。

「5 windows」は10月7日(金)までやっているらしいので、本当に、ぜひ見に行ってほしいです
コレ!→http://spectacleonthebay.com/plays/cinemadenomad/