3月1日

東京芸大馬車道で修了展、5本のうち4本、鶴岡慧子『あの電燈』、松井一生『ユラメク』、桝井大地『霧の中の分娩室』、五十嵐耕平『息を殺して』見る。
『息を殺して』がずば抜けて最高に面白かった。
「工場」に「犬」と「美少女」を配したこと、とりわけ小雪吉高由里子ペ・ドゥナを足してさらに何かしたような谷口蘭というあの女優を工場の事務の女の子役にキャスティングしたことがこの映画の大成功の一歩だろう。
私は(われわれは)工場に行くのが嫌で工場とは監獄のような場所でありそれに比べて家とは安心・安全・快適な場所であるが、度肝を抜かれたのは、この映画の2017年12月30日・31日の世界ではわれわれの常識とは反転してまず工場がユートピア的な場所としてあり、逆に家には誰も帰りたがらない、「家は外」という、古代ギリシャ的、ポリス的状況の発想だ。
また今まで何度も映画の間違った工場を見てきて度々苛立ちを感じていたが、『息を殺して』はこれぞ正しい工場という工場が映っていて本当に最高で嗚咽が止まなかった。見終わった後もうまい海鮮丼を食い終わった後の口のなかのように目と耳をずっと残り味で満たしていたかった。私自身工場に頻繁に通っているからかも知れないが、すごい可能性に満ちた映画に思った。『ギマランイス歴史地区』で男と兵士と亡霊がエレベーターの中で語り合うペドロ・コスタ編を思い出した・・・と雑だが、これ以上の工場映画は本当に見たことがない。