「最前線物語」 サミュエル・フラー

家の小さなテレビで、部屋を明るくしたまま映画をみるとき、しばしば他のものに意識が行ってしまって、なかなか集中できない。
しかし、サミュエル・フラー最前線物語」(1981)は、113分間一瞬も目を離すことができなかった。家でこんなに集中して映画を見れたのは初めてだ。

第二次世界大戦第一次大戦で生き残った米軍の老軍曹(リー・マーヴィン)が若い兵士を率いて、最前線を転戦する話。

「目を逸らしてはいけない」という状況がある。相手がその目で真剣に自分の目を見つめていて、ここで目を逸らすと、取り返しのつかないことになると感じる状況が、ときどきある。

最前線物語」の軍曹の目は、まさにそのときの相手の目だ。軍曹は僕らを見つめ返してくることは無いものの、その何かを見つめている目からこの目を逸らしてはいけないと強く感じる。「目を逸らしてはいけない」。この感覚は、部下である若い兵士たちにも伝染する。
なぜ目を逸らしてはいけないのか。それは最前線だからだ。何よりもまず、敵から目を逸らせば撃たれる。軍曹は、真剣に何かを見つめつづけるその眼差しを、部下に伝える。そして、その眼差しは、僕らにも伝染する。「目を逸らしてはいけない」。だから画面から、目が離せない。死ぬまで、この真剣な眼差しで見つめ続けなければならない。死ねば見つめなくても良い。だから軍曹は、死にゆく若い兵士の目元には優しく布をかぶせる。

仲間、敵、死者、戦場、戦車、海、山、女性、子供、妊婦、赤ん坊、精神病患者、動物・・・軍曹は真剣な眼差しで全てを見つめる。そして、部下も、僕らも、同じように真剣にそれらを見つめる。

ゲットーの暗い部屋にずっと閉じ込められていたユダヤ人の少年は、軍曹が言葉を投げかけても、ただ軍曹を見つめるだけでまったく返事をしない。軍曹は、それでも少年の目を真剣に見つめ返す。軍曹と少年の切り返しショット。目線が交わる。それだけで、言葉はなくても、軍曹と少年は通じ合う。軍曹は少年を肩車し、河辺を歩く。少年は、軍曹の肩で息絶える。

「真剣に見つめること」 軍曹はその眼差しで、僕らに教えてくれる。