若尾文子

夜、新宿、角川シネマで溝口健二『赤線地帯』見る。
女の子が「かわいい」と思ったとき、どこを見るか、見ようするかといえば、まず彼女の視線の動きを見るし、そして何よりそのこじんまりとした唇の形を見ようとする。たとえばエレベーターの中で。まじまじと見たいのは、唇の形状である。
『赤線地帯』の20代前半の若尾文子の視線の動き、横顔の唇の形を自然に追うこと。若尾文子はかわいい。付き合いたい、家に行きたいと思えるくらいに現代的である。この若尾文子の現代性、古びなさはすごい。
いやそれは『最高殊勲夫人』を見てからだろう。若尾文子のことがだんだん好きになっているのがわかる。『刺青』とか『浮草』とか『女は二度生まれる』とかを見てきて、きれいだとは思っていたが、若尾文子にかわいさを見い出すことはなかった。きっと岡田茉莉子にとっての『秋日和』のように、『最高殊勲夫人』は若尾文子のかわいさを発見させてくれる。
だから今日、『赤線地帯』の若尾文子をみるときひたすら考えていたのは、20代前半の彼女がいったい何を考え、女優をやっていたのかという実存的なことだ。より一層「やっちゃん」が客に首を絞められ、卒倒するカットはグッとくる。