9月24日 坂本あゆみ『FORMA』

谷中のギャラリーでアピチャッポンの個展。
渋谷、オーディトリウムで坂本あゆみ『FORMA』。最高に面白い。ほとんどがフィックスのワンシーンワンショットで撮られている。何を見せ見せないのか徹底的に考え抜かれてカメラポジションが決定されているようだ。これは何度も見て研究したい。
衣食住の絶妙な演出が登場人物やそのセリフを肉付けする。ファミレスで定食(あるいは「ご膳」。ご飯と味噌汁が付き、メインと小鉢など自由に選択でき、お盆に乗せられている)をたのむ人間は経験上、同席した者より社会的に優位な立場にある者か、あるいは、ある種の潔癖を持った者であるように思う。
手を洗ったかとか洗濯はしたかとか、娘の他愛ない問いかけに対して少し間を開けて「うん、わかったわかった」とか「ごめん、わかった」とか、わかっているのかいないのか曖昧だがしかし従順な返事をする光石研。この光石研がどうやら職場らしい場所で、編集台の前に座って黙々と作業をしているショットを見ると、これは『降霊』の役所広司に似てはいないかと思う。『降霊』の役所広司は録音技師だった。その光石研と2人暮らしの娘が、ガタガタ大きい音を立てて回転する洗濯機の前に立ち尽くして放心などしていれば、これはもう光石研黒沢清映画の役所広司と重ねて見るほかない。『CURE』で高部の妻は空っぽの洗濯機を回していたが。『FORMA』は引きのフィックスショットなり暴力的な音による演出なりどこか黒沢清を感じる。
では、疲弊しきった親しい女性を前にしたとき、黒沢清役所広司なら何と言うか。「どこか旅行でも行こう」だろう。が、光石研はそうはならない。例のテープを見たとき、役所広司ならどうしたか。
ちなみに坂本あゆみ監督が最も影響を受けた映画監督はハネケだという。