9月21日 泣けるものは泣き、笑うものは笑え

飯田橋、アンスティチュフランセでジャック・ドゥミ『ローラ』『モデル・ショップ』。
『ローラ』はドゥミの長編処女作であり、ゴダールの『映画史』にも引用されているのを見て、長年見たかった一本で、数年前のフランス映画祭か何かで有楽町で上映されたときは売り切れで見られず、もちろんレンタルもされていないので、自分のなかでほとんど神話的な存在と化しており、冒頭、黒画面に「泣けるものは泣き、笑うものは笑え」という白字、さらに「マックス・オフュルスに捧ぐ」と続き、ナントの海岸を車が疾走するショットに『へウォンの恋愛日記』の男性がラジカセで繰り返し聴いていたあの曲(ベートーベン)が流れ(そしてこれはオフュルスの『快楽』のテーマであるという!)、そこに「撮影 ラウル・クタール、音楽 ミシェル・ルグラン・・・」というクレジットが続いて、完全にやられた。完全に元祖だろうと思っていた『少女ムシェット』の遊園地シーンの元ネタがこの『ローラ』だったのだと知ったり、あのスローモーションなど、終始鳥肌立ちっぱなしだった。ミュージカルではないので登場人物はサントラに合わせて歌ったり踊ったりしないはずなのだが、ときおり登場人物たちがサントラとシンクロして身振り、またサントラに合わせて絶妙な間を持ったりしていて、ゾッとした。なるほど映画音楽とはこれだ。
またローラ(アヌーク・エーメ)がときおりあのローラにすごく似た表情を見せるので、もしやあのローラの由来はドゥミの『ローラ』なのではと思い始め、だとすると、釈放されて警察署から出て来るとき、報道陣に囲まれながら車に乗り込み「ローラ!パパ大丈夫だからね!オッケー!」とカメラに向かって言っていたあのバングラデシュ人の父親がドゥミの『ローラ』を見て「ローラ」と名付けたのかも知れないと考えると、あのニュースのワンシーンは感動的なものだったかもしれないなと感慨にふけりながら、上映後調べてみると、ローラとは『大草原の小さな家』の「ローラ」だということだった。