8月9日

お化けの姿が実体化されて明らかになったとき、素っ裸の人間を前にしたときのような、それまでの興奮を裏切られるあっけなさにがっかりしてしまうのは、それが本質だと言って仕方ないとするべきかしれないが、子供の頃はじゅうぶん怯えることができていたその実体化された姿に、もう一度怯えたい。女性のお化けであれば、髪が長い、ボロボロの服を着ていて、それに最近では動きが高速だったり、関節がユルユルだったり、巨大だったりの要素がプラスされて色々と工夫されるが、実体化に努力が施されればされるほど、ばかばかしい姿になってしまったりする。もはやコメディとしてしかホラーを楽しめないのか。
ツタヤで借りた「学校の怪談 物の怪スペシャル」を見る。これは小学生の時に放送されたのをリアルタイムで見た覚えがあって、「花子さん」のいくつかの場面―浮遊する女学生の制服がすりガラスのむこうに見えるシーン、花子さんが夜の街に繰り出すラストなど―ははっきりと覚えていて長年探していたものであったが、これは黒沢清が監督したものだと知って驚いた。
花子さんの実体―長い髪に赤い服、曲がった腰・・・―が明らかになったとき、小学生の頃は怯えることができたが、今ではやはりそんなことはない。が、「花子さん」では、加瀬亮の「花子さんはやばい顔をしていて、その顔を見た人間は恐怖のあまり体の芯から消えてしまうらしい。いったいどんな顔なんだろうね」という言葉をモーターにして、実体が明らかになった後も、顔はなかなか明らかにされず、顔を宙に吊り続ける。そして顔が明らかになるか、という瞬間―小学生の頃、このシーンは目をつぶって見ることができなかったから、ずっとどうだったのか気になっていた―結局顔は明らかにされないまま、宙に吊られたまま、主役の京野ことみは消えて、花子さんは学校を飛び出して、夜の街に繰り出す。