10月25日 ホン・サンス『今は正しくあの時は間違い』

朝、六本木TOHOシネマズでTIFFホン・サンス『今は正しくあの時は間違い』。真冬に石油ストーブを焚いて部屋の中で見たいと思える映画はことごとく傑作だ。
絵を見る、または鮨屋のカウンターに向かう彼女を軸にして我々観客とちょうど対称に座って、彼女を見つめる主人公。そのとき彼の顔芸とでも呼ぶべき、あの演技のたがが外れる時間は素晴らしすぎる。また彼が酔って服を脱ぎ出すシーン。演技がドライブし、ほとんど悪ノリと呼んでいいほどに「ほんとうにやり始める」ことの多幸感。
フレーム外で服を脱ぐ主人公を見て悲鳴をあげる2人の女性は、『オルエットの方へ』のウナギに驚き叫ぶ女性たちを思い出させる。またフェリーこそ出てこないが『今は正しくあの時は間違い』の後半部は唯一性と別れの影を落としている。部屋で彼女が主人公の頬に手で触れるのがより残酷なのは、前半部、机に伏す彼女の頭に主人公が同じように手で触れていたからだ。
ロメールと同時にロジエを思い出す。ロジエは真夏だが、真冬である。今年のベストの一本であると同時にホン・サンスのベストの一本だろう。
夜、新宿テアトルで菊地健雄『ディアーディアー』見る。上映後、菊地健雄黒沢清トークショー