先日「珍獣屋」で食べたカンガルーの肉の味が何に似ているか。明らかにそれまで食べたことがない味で、ミントなどハーブのような味がしたが決して爽やかではなく、ただ「草食動物の味」と言うのがよいかもしれない。カンガルーだけに「お袋の味」と巧いことを言いたいところだがお袋の味の対極にある。わからない。たしかに珍奇であるがその味をめぐって仲間内で決して盛り上がったりできる味ではない。
安部公房の小説に『カンガルー・ノート』があるが、いや、まさにカンガルーは「安部公房の味」ではなかったか。以前安部公房の何かの短編で、少年がかぶっている野球帽のツバをたんなる「緑色」ではなく「透明な緑色」と表現しているのを読み、そこに安部公房を感じた。まさにカンガルーはその「透明な緑色」のような味で「安部公房の味」ではなかったか。