「トゥー・ラバーズ」 ジェームズ・グレイ

憧れのお姉さんと知り合えたとき、牛乳がこぼれることなどお構いなしに牛乳配達用の台車を思いっきり引っ張って、団地の広場を全速力で駆け抜けるほど歓喜し、お姉さんにフラれたときには、世界の終わりのような表情を浮かべて手首を剃刀で切って自殺をはかる。そんな、キェシロフスキの「愛に関する短いフィルム」に登場する20歳そこらの主人公の青年のような純粋さを、恐らく30歳を過ぎているであろう主人公・レナードに見出すことができ、それが「トゥー・ラバーズ」のたまらない痛切さなのだ。
父親のクリーニング屋を手伝いながら、アパートで両親と共に暮らしているレナード(ホアキン・フェニックス)。ニューヨークの厳しい寒さ、そして家族やその周りの諸々の関係のために、逃れたくても逃れられない閉塞した空間の重圧に彼は耐えている。彼が、洒落たコートではなくて、毎日毎日同じ土色の凡庸なジャンパーを着て、その重圧に耐えているということが、本当にみごとだ。

「トゥー・ラバーズ」はツタヤで準新作レンタルしているので、ぜひ見ていただきたい。深夜で疲れているので短い文章だが、「トゥー・ラバーズ」はほんとに素晴らしくて吃驚した。