サウダーヂ・オールナイト

23日(金)にオーディトリウム渋谷で、空族の「サウダーヂ」、「国道20号線」、そしてエドワード・ヤンの「恐怖分子」の3本立てサウダーヂ・オールナイトが開催される。エドワード・ヤンの「恐怖分子」は、渋谷のツタヤに行けばヴィデオテープがあるけれど、近所のツタヤにはまずないし、映画館で見られるのはこれが一生で最後の機会になるかもしれない。この機会を絶対に逃すわけにはいかない。
大分前にヴィデオを借りてきて一度見た「恐怖分子」の数々のショットを、今でもはっきりと覚えている。冒頭の数ショットだけで打ちのめされた記憶がある。街を、道路を、建物を、部屋の内部を、「カチッ、カチッ・・」と順々にとらえたショットの見事な連鎖を目撃すれば、誰しも、空間に誘導されるだけの人々の、僕ら自身の、不自由さを意識することだろう。
巨大な球体ガスタンクの映像は特に僕の脳にこびりついている。ラオール・ウォルシュの「白熱」でも、たしか、巨大な球体ガスタンクが出てきた。ギャングのボス、コーディが球体ガスタンクの頂上に立ち、「やったぜママ!最高だ!」と叫びながら自爆していくラストも、「恐怖分子」の球体ガスタンク同様に印象深く残っている。

先日、「サウダーヂ」の富田克也監督のトークショーで、富田監督は「パチンコ屋から出て来た人がどこへ向かうのか見ていると、向いにあるアコムに入って行った。それを目撃したときに何かひらめいた」と語っていた。パチンコ屋の向いにアコムがあるということ。パチンコ屋とアコムの経営者は違うのかもしれないけれど、富田監督が言うように「資本主義という同じ経営者の元で」それらは向かい合い、隣り合っているのだろう。

そして僕らは、知らず知らずのうちに、それらの空間に誘導されている。皆それぞれ違うはずの僕ら個々の人間の趣味・嗜好、考え方の最大公約数として弾き出された「わかりやすいもの」への最短距離を、僕らは移動させられているということを、「サウダーヂ」、「国道20号線」は意識させてくれる。
「恐怖分子」にはパチンコ屋も、アコムも、ドン・キホーテも出てこない。しかしそこに映っているのは、創り出された無機質な空間に誘導させられるという点で、「サウダーヂ」、「国道20号線」の登場人物と同じような人々だ。

この豪華な3本立てオールナイトを見逃すわけにはいくまい。