冬といえば

僕が小学校5年生の冬だったろうか。帰宅すると、兄さんの友人たちが家に遊びに来ていて、ストーブで十分に温められた畳の部屋で、プレイステーションの「メタルギアソリッド」をやっていた。それまで「スーパー・ドンキーコング」と「クラッシュ・バンディグー」しか知らなかったウブな僕は、その傍らでそれを見ていて衝撃を受けた。それはちょうど、リボルバー・オセロット戦だった。戦いの前、オセロットは華麗な銃さばきを披露し、「この銃は世界で最も高貴な銃だ」などと語る。「6発だ。6発生き延びたものはいない」。そして、「来い!!」と言うと、あのイカしたボス戦の音楽が流れ、戦いが始まる。僕はそれだけを見て、「メタルギアソリッド」に一目ぼれをしてしまった。
思えばその時から、僕の「メタルギアソリッド」シリーズの歴史は始まったのだった。

中学2年生の冬には「メタルギアソリッド2」をひたすらやった。ドッグタグを集めるために、いったい何人の兵士をホールドアップさせたことだろうか。そしてラストの雷電ソリダス・スネークが戦うあの屋根の上。あれはニューヨークのウォール街にある「フェデラル・ホール」の屋根の上だ。今年の冬にニューヨークに行ったときには、もちろん、その「フェデラル・ホール」を訪問し、ソリダスが伏したジョージ・ワシントンの像の傍らで何枚も写真を撮った。
中学3年生の冬は「メタルギアソリッド3」だった。登校時はいつも、友人のヤゴウ君とその話でもちきりだった。ステルス迷彩を手に入れるためにどれだけ苦労したことか。
1も2も3も、なんといっても、ボス戦前のショートムーヴィーで、ボスがまず自己紹介をして、最後に「いくぞ!」とか「来い!」とか言って、ボス戦が始まる、というのが僕はたまらなく好きだった。
高校1年生の冬には、河合さんとゾシマさんと共に、「メタルギアソリッド」オンラインで「チーム・デスマッチ」をやるのが本当に楽しかった。いったい何度「ヘッドショット」をしたことだろうか。
凍てつくような寒さの北陸の冬に、リビングや隣の畳の部屋をストーブで十分に温めて、僕は「メタルギアソリッド」を繰り返し体験し、発見してきた。

ここ4,5年、しかし、僕はゲームそれ自体ほとんどやらなくなった。それは高校を卒業して、上京してからだろう。1年前に「ポケットモンスター・ブラック」を一通りプレイしたくらいだろうか。数年前にプレイステーション3の「メタルギアソリッド4」が出たらしいが、それも結局買わなかったし、ほとんど注目することさえしなかった。

今日、「メタルギアソリッド2」と「メタルギアソリッド3」の同梱版「メタルギアソリッド HD EDITION」とやらが発売されているということをテレビCMで偶然知った。そのCMにはAKB48小嶋陽菜が出演していて、「メタルギアも有名になったなあ」と僕は感慨にふけっていた。

プレイステーションの「メタルギアソリッド」には、延々と続く螺旋階段を、兵士を倒しながらひたすら登る場面がある。そこでは、リボルバー・オセロット戦でも流れていた、あのイカしたボス戦の曲が流れる。
横浜市立図書館の果てしなく長い螺旋階段を登るとき、今でも、僕の頭の中ではいつもその曲が流れる。そして、北陸のかつてのいくつもの寒い冬を、温かいリビングや畳の部屋で、「メタルギアソリッド」と共に過ごしたことを思い出すのだ。