「乱れ雲」と「犬猫」とハイライト

キネカ大森で成瀬巳喜男の「晩菊」(1954)と(「人のセックスを笑うな」の)井口奈己の「犬猫」(2004)の二本立てを見た。
見事な演出が光っていて、どちらも素晴らしかった。

なぜこの二本立てなのだろう。中心的な登場人物として女性が3人出て来るという点がまず、共通点として思い浮かぶが、それはごくごく表面的なことに過ぎない。
「犬猫」では、登場人物たちがひたすら道を歩いたり、列車がすれ違ったり、終盤で雨が降り出したりというような、成瀬巳喜男の映画に特徴的な共通項を見出すこともできる。井口奈己がそういった成瀬巳喜男との共通項に意識的だとして、「犬猫」との二本立てが「晩菊」である必要性は今ひとつ見出せない。

むしろ、僕は昨日神保町シアターで見た「乱れ雲」(1967)に、「犬猫」とのより深い共通項を見出すことができた。
乱れ雲」で、加山雄三はハイライトを吸っていた。女(司葉子)は男(加山雄三)が忘れていったハイライトとライターを男に届けることによって、その後も男と関係を持つことになる。
「犬猫」で西島秀俊が吸っているのもハイライトだ。古田(西島秀俊)は、スズ(藤田陽子)の元彼であり、ヨーコ(榎本加奈子)がかつて好きだった男だ。スズとヨーコは友人同士で、二人暮しをしている。あるときヨーコは、現在好きな男性をスズにとられ(たような感じになり)、その怒りから古田の家へ行く。そして翌朝、ヨーコは古田のハイライトを二人暮しの家に持ち帰って来て、それを証拠として「古田と寝た」(本当は寝てない)とスズに告げる。スズは怒り、取り乱し、布団にもぐりこむ。その後、ヨーコがいなくなった部屋で、スズは机に置かれた古田のハイライトを吸い、古田が味わっている味を知る。スズは立ちあがって、和やかな表情を見せる。

乱れ雲」と「犬猫」とハイライト。ハイライトは、女と男―司葉子加山雄三、そして榎本加奈子藤田陽子西島秀俊―の、そして、世代間―成瀬巳喜男井口奈己加山雄三西島秀俊・・・―の、架け橋となる。ハイライトの素晴らしさ。
「晩菊」より「乱れ雲」との二本立ての方が良いのではと思ったが、きっと様々な理由のために無理だったのかもしれない。キネカ大森の「犬猫」と「晩菊」の二本立てには、しかし、感謝している。