東京国際映画祭

3Dメガネが涙で曇った・・・という書き出しを考えていた。
満員の急行から、自由が丘で各駅停車に乗り換えさえしなければ、この書き出しで始め、「Pina/ピナ・バウシュ」について、そしてヴェンダースとの出逢いについて、熱く語れていたことだろう。

当日券を買うための列に並んだのは、販売開始30分前の9時ちょうどだった。僕の前には50人ほどの列ができていて、買えるかどうかはすごく微妙だった。
僕の何人か前だ。何人か前は、しっかりと当日券を手に入れていて、ガッツポーズをしていたのをこの目でちゃんと見た。だから、もちろん僕も、その時点で「これはいけるぞ」と確信していた。
しかしだ。僕がチケットカウンターでニヤニヤしながら「ピナください」と告げると、お姉さんは「もうない。悪いね。他をあたってくれ」と言ったのだ。僕はその場で崩れ落ちた。「ヴェン!!」 僕はTIFFスタッフに抱きかかえられながら、TOHOシネマズの出口まで連れて行かれた。やはり甘かった。
僕は「祭り」と相性が悪い。「祭り」があるときはいつも、外で指を咥えながら見る羽目になってしまう。


このままでは帰れない。消化不良なので、六本木ヒルズの展望台フロアにある森美術館で「メタボリズムの未来都市展」を見る。
建築には全く詳しくないが、分かりやすい説明書きが添えられていて「メタボリズム」というものが良く分かったし、すごく感動した。「メタボリズム」とは、戦争で荒廃した日本が復興し高度経済成長へと移行した時代に、丹下健三黒川紀章菊竹清訓・・・を中心に、理想的な都市創りを目指して行われた建築運動のことだという。
展示は歴史を追っていく形になっていて、入口を入ってすぐのところに、アラン・レネの「ヒロシマ・モナムール」がテレビ画面に映されていたのには一気に惹き付けられた。そして、戦後復興計画の際に「水上都市」、「空中都市」、「水中都市(は無かったかもしれない)」など、安部公房の小説に登場するようなSFチックなプランを本気で考えていた「メタボリズム」のロマンには本当に興奮した。黒川紀章・作の「中銀カプセルタワービル」が出来ていく様子を映した映像には魅入ってしまったし、大阪万博のミニチュア模型はクレヨンしんちゃんの「オトナ帝国の逆襲」を思い出させてくれ、これに比べれば「夢の国」ディズニーランドなど目じゃないと思った。「夢」とか「理想」とか言うのは少し照れるが、そのミニチュアには、今の世の中には全く感じられない、ディズニーランドにも無いような、「夢」とか「理想」が確かにあった。大阪万博の「お祭り広場」の大屋根が出来ていく映像は、だから、落涙してしまうくらいだった。こっちの「お祭り」にはしっかりと参加できたので、今日は満足して帰宅することができた。